『あちらにいる鬼』井上荒野

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本ときどき映画

他人の恋愛にはまったく興味がないのだが、井上光晴とその妻と瀬戸内寂聴の三角関係を、井上夫妻の長女である井上荒野さんが書いた、この小説は読んでみたくなった。

『あちらにいる鬼』書影

 

これ、限りなく実話に近いのだろうなあ。自分の両親の長年にわたる、世間から好奇の目で見られてきた色恋沙汰を、「小説だから書けた」と著者はインタビューで説明している。小説家の覚悟とはすさまじい。

父の愛人であった寂聴さんとは長年の交流があるそうで、小説に書くにあたっては寂聴さんから、「もちろん書いていいわよ、なんでも喋るから!」とお墨付きをもらったというエピソードを読むと、荒野さんも寂聴さんもプロだなあとつくづく思う。

感想はというと、題材は生々しいのだが、読んでいて清々しい。むしろ爽やかなぐらいである。なんだろうこれは。人間同士の関係って本来はこういうものなのではないだろうか?

一般に不倫はイケナイコトとされていて、著名人の不倫がもれなく叩かれる昨今である。他人事なんだから放っておけばよいのに、不倫のスキャンダルが世間の耳目を集めるのは、誰もがみな人と人とのつながりを無視できないからなのだろう。見過ごせない。自分ごとにおきかえる。何か言いたくなる。だから叩いてしまう。

個人的にはラストシーンがとても好きだった。美しいなあ、と思った。

 

■『あちらにいる鬼』
井上荒野 著(朝日新聞出版)

『あちらにいる鬼』書影

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さとまる

トラベルライター&エディター。
1965年生まれ、東京在住。
出版社勤務ののち独立して、Sawa-Sawaの屋号で旅行メディアの仕事をしています。

旅行はいつどこへ誰と行っても楽しく、弾丸よりも長く行きたい派。とくに東南アジアや沖縄の高温多湿な気候とボーダーレスな雰囲気が好きです。温泉&ビール付き日帰りハイキングもお気に入り。

2019年4月にブログをリニューアルしました。ときどき覗いてみてくださいね。
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