『あなたを選んでくれるもの』ミランダ・ジュライ

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本ときどき映画

映画監督で脚本家の著者は
次回作の脚本執筆でスランプに陥っていた。
そこで、現実逃避に
『ペニーセイバー』の広告主への
インタビューを思いつく。

毎週火曜に届く『ペニーセイバー』は
売買広告のフリーペーパーだ。
2009年、10ドルの革ジャンを売りたい
性転換中の男性からインタビューは始まる。

写真が多いし、軽く読めそうだし、
なんてことない、市井の人々への
インタビュー集かと思ったら、違った。

『ペニーセイバー』の広告主は
著者がふつうに暮らしていたら
交流しないであろう種類の人たちだった。
多くはパソコンを持っていない。
もちろん楽しい出会いばかりではない。

著者はそのような人たちを
理解し、受け入れようと苦しみ、
インタビューは次第に重みを増していく。
同時に、逃避していた映画の脚本も
少しずつ展開していくのだ。

これがSNSだったら
たちまち炎上してしまうだろう。
書籍であっても批判は多いに違いない。

でも、創作の過程では時に
どうしようもなく追い詰められ、
追い詰められてはじめて
壊さなければならない壁が
目の間に立ちはだかっていることに
気づくのではないか。

と、現実逃避に読んだ私は
つらつらとそんなことを考えた。
岸本佐知子さんの訳もとてもよいです。

 

■『あなたを選んでくれるもの』
ミランダ・ジュライ 著、岸本佐知子 訳(新潮クレスト・ブックス)

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さとまる

トラベルライター&エディター。
1965年生まれ、東京在住。
出版社勤務ののち独立して、Sawa-Sawaの屋号で旅行メディアの仕事をしています。

旅行はいつどこへ誰と行っても楽しく、弾丸よりも長く行きたい派。とくに東南アジアや沖縄の高温多湿な気候とボーダーレスな雰囲気が好きです。温泉&ビール付き日帰りハイキングもお気に入り。

2019年4月にブログをリニューアルしました。ときどき覗いてみてくださいね。
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