キッチン・コンフィデンシャル/アンソニー・ボーデイン

先日、たわいないおしゃべりの途中で
アンソニー・ボーデインの名前が出た。
…誰だっけ?

「ほら、昨年、自殺しちゃったシェフ」
と言われて思い出した。
『キッチン・コンフィデンシャル』の人か。
で、読んでみたら面白いーー。

アンソニー・ボーデインは
ニューヨークのブラッスリー「レアール」の
エグゼクティブ・シェフだった2000年、
レストラン業界の内幕を描いた本書が
大ヒットして有名人になった。

若い頃は酒浸りで、ドラッグ中毒。
破天荒な日々を送りながら、
一流のシェフになるために
一流のシェフであり続けるために
苦悩し、もがき続けた。

スピード感あふれる文体から、
ロックで知的で
チャーミングな人柄が伝わってくる。
けれど、亡くなったときの報道によると
晩年は鬱病に悩まされていたという。


本書の巻末には
シェフになりたい若者への
アドバイスが添えられている。
全14項目の1番目は「全身全霊を捧げよ」。
真摯な料理人だったのだなあ。

あなたを選んでくれるもの/ミランダ・ジュライ

映画監督で脚本家の著者は
次回作の脚本執筆でスランプに陥っていた。
そこで、現実逃避に
『ペニーセイバー』の広告主への
インタビューを思いつく。

毎週火曜に届く『ペニーセイバー』は
売買広告のフリーペーパーだ。
2009年、10ドルの革ジャンを売りたい
性転換中の男性からインタビューは始まる。

写真が多いし、軽く読めそうだし、
なんてことない、市井の人々への
インタビュー集かと思ったら、違った。

『ペニーセイバー』の広告主は
著者がふつうに暮らしていたら
交流しないであろう種類の人たちだった。
多くはパソコンを持っていない。
もちろん楽しい出会いばかりではない。

著者はそのような人たちを
理解し、受け入れようと苦しみ、
インタビューは次第に重みを増していく。
同時に、逃避していた映画の脚本も
少しずつ展開していくのだ。

これがSNSだったら
たちまち炎上してしまうだろう。
書籍であっても批判は多いに違いない。

でも、創作の過程では時に
どうしようもなく追い詰められ、
追い詰められてはじめて
壊さなければならない壁が
目の間に立ちはだかっていることに
気づくのではないか。

と、現実逃避に読んだ私は
つらつらとそんなことを考えた。
岸本佐知子さんの訳もとてもよいです。

告白 〜あるPKO隊員の死・23年目の真実/旗手啓介

2016年に放送されたNHKスペシャル
「ある文民警察官の死
〜カンボジアPKO 23年目の告白〜」
の書籍化(2018年1月発行)。

 

番組を観た人もいると思うけれど
(私もたまたま見た)
心にずしんと残る衝撃的な内容で、
いくつもの賞を受賞している。

でも、カンボジアPKOで日本の文民警察官が
亡くなった事件そのものは、
ああ、こういうことあったなあ、
ぐらいの記憶しかなかった。

番組取材は10カ月におよぶもので
49分の番組では伝えきれない複雑な背景が
本書では詳しく語られている。

 

代理戦争を発端とする内戦によって
“キリング・フィールド”となった
カンボジアを民主国家にするために、
1992年、国連のUNTACがPKOを派遣。
44カ国が参加した。

日本政府と外務省は各国から
人的貢献を求める圧力をかけられ、
初めて自衛隊を派遣したPKO。
UNTACのトップは日本人だった(明石康氏)。

 

PKOは派遣先の停戦合意が前提となるが、
現実は村人も自動小銃やロケット砲を持つ
殺伐とした戦場であり、
総選挙が近づくと、UNTACの施設や
PKO隊員が襲撃されて犠牲者が増えていく。

自衛隊は比較的安全な地域へ
600人全員が一部隊として派遣されたが、
日本の文民警察官75人は数人単位で各地へ。
事件が起きたアンピルは無法地帯だったという。

 

ところが、停戦合意を建前に
UNTACは適切な対策をとらず、
日本ではほとんど報道もされなかった。

他国ではPKO派遣を第三者が検証し、
公式文書を公開しているのに、
日本政府は事件の検証すらせず、
帰国したPKO隊員には沈黙を強いた。

 

正直、読みながら
怒りや憤りしか湧いてこなかった。
日本てこういうところがダメすぎる。
南スーダンも同じような状況なんだろう。
闇は深く、いろいろ考えさせられます。

 

番組はNHKオンデマンドで
PKOの概要は外務省ホームページで